2007年2月25日

●SP005 - 優勝決定戦 - 采配という名の武器

東海リーグも最終節となった、エコパアリーナで行われた第11節
その中でも最も注目を集めたのが、Bコート第3試合で行われた大洋薬品/BANFF vs Praia Grandeの同率首位対決であろう。
この試合は、勝った方が文句なしに優勝を勝ち取るという、優勝決定戦の意味合いをも持ってしまう。
すでにレポートでも書いたように、大洋薬品が2分に森岡、8分にマルキーニョスと、立て続けに一発レッドでピヴォを失うという波乱の立ち上がりで幕を開けるも、それでも構成、戦略を変え2点を先制するというポテンシャルの高さを魅せ、プライアはプライアで、普段はあまり見かけることの無い「パワープレー」を見せ、最後まで全日本チャンプに食らいつくという、観る者を最後まで飽きさせない好ゲームを演じた。

残念ながら、唯一そのレベルに対応できなかったのは、それをコントロールするジャッジだったのかも知れない。
実際に観戦していた限りでは、森岡、マルキーニョスへのレッドカードの処置は確かに適切な対応に見えた。
やもすると、前半開始早々に一枚出した事で、二枚目を躊躇してしまう事も考えられる状況の中で、そのプレーを適切に判断し、迷い無くジャッジした勇気は評価に値する姿勢だったと言えるだろう。
この試合では他に、マルキーニョス退場と同じく同8分にラファエル(大洋薬品)への警告、後半立ち上がり2分に勝又(プライア)、4分に奥山(プライア)へ警告と、レッド、イエロー併せて5枚のカードが提示された訳である。記録だけ見ると前後半共に、早い時間にカードを出すことで、終盤のラフプレーを巧くコントロールしたかにも見える。が、実際の試合を観戦する限りは、明らかにジャッジに対する不満、不信感が試合を通じてかなり長い間ベンチに漂っていたように見えた。
大洋薬品サイドではオスカーを筆頭に、数人が終始立ち上がった状態でアピールを繰り返し、コーチ陣、選手も苛立ちをあらわにしたまま試合が進んでいった。何度も前に出て行く監督、コーチをスタッフが抑えるといった光景は何度も見かけることが出来た。
単に、選手二人の退場から来る苛立ちであれば、時間の経過と共に落ち着きを取り戻すことも出来たと思う。
だがしかし、両チームのスピードにのった目まぐるしい攻守の切り替えに、審判が対応しきれず、途中からは同じようなプレイに対して同じジャッジを取ることが不可能になっていってしまったかのように見えた。
適切な判断であった序盤の「ラフプレー」に対しての対応とは逆に、プレースピードに耐えかねて、通常のプレーに対する判断が徐々について行けなくなった事は今後の課題として残るかと思う。
ただし、この試合はそういった二次的要因だけで勝敗が決まった訳では無いことは確かである。
大洋薬品は、大切なカードを二枚失いながらも、見事そのイレギュラーを処理し、抜群の対応力でピンチを見事に乗り切った。もし一般のチームであれば、あれだけの不利な状況であれば、おそらく敗戦を余儀なくされ、最後に「ジャッジに対する不平」を口にして終わる事で、結果に目を背ける事もあり得なくはないと感じる。それぐらいの危機的状況を乗り越えた事は確かである。
試合を見る限りでは、当初失った二枚のピヴォに対する対応は、そのままその位置に「暫定的なピヴォ」を配置することで対処に入ったように見えた。恐らく、中でもボラにその役割を期待したかと思う。
ただ、森岡、マルキーニョスという生粋のセンタープレイヤーが持つ、「相手を背中に背負った強さ」は、ボラの特性では無かった。彼はどちらかと言えば「強さ」でなく「アジリティー」の面での特性を持つ選手だと思う。
「急激なターンとストップ」を武器にするボラは、相手を後ろに背負った状況でのプレーを好まない。相手を前にしてこそ、その特性が活かされる選手ではないだろうか。
おそらく、オスカーは早々にこのプランを破棄した。
森岡とマルキーニョスの代わりは森岡とマルキーニョスにしか出来ない、と判断した彼は、そこで、「ピヴォ」という「役割」を消し、全ての選手が使うための「エリア、役割、ポジション」へと変更した。
後ろの3枚の選手を前の1枚の選手が呼び水となって誘い込む。という事をやめ、そのエリアを空けることで4人の選手が入れ替わり立ち替わり使えるエリアへと変えていった。
それと同時にピヴォと対比するコントロールフィクソも消えたのではないかと思う。
主に展開を受け持つ選手を置くのではなく、移動してはそのエリアの役割をも、それぞれがこなすという事で完全に流動的な攻撃にシフトした。
一例を挙げれば、その後、この試合では北原のサイドでの「突破」がいつになく増えた。豊島らもセンターでパスを散らしたかと思えば、相手ゴール前にも出現する事で、4人の流動的な機動力を活かし、相手ディフェンスを翻弄して行くこととなる。
これには選手のマルチロールさが不可欠となる。つまり、フィクソの位置ではフィクソを、アラの位置ではアラと、そのエリアにおいてのプレイを随時変化していかなければいけない。
ここでプライアとの差がはっきり現れた。
前半2分、8分の退場による数的有利な2分間で、プライアは戦術を変えることが出来なかった。
自分達の持ち味である、ハイプレスと個々を活かしたカウンターは、この場面ではさほど重要性を持たなかった。
大洋薬品が、メイン戦術である重量感のあるポゼッションからのフィニッシュを、流動的な動きと、パスの展開にスピードを持たせることにシフトしていったように、その状況にあわせる戦術、戦略を当てはめる事が出来なかった事は、この敗因の中の、大きな要因ではなかったかと思う。
相手FPが3人となった状況で、プライアはポゼッションを上げる術を持っていなかったのかも知れない。
残念ながらここまでの彼らの躍進を支えてきた武器は、自分達のポゼッションを上げる事ではなく、あくまで、相手ポゼッションを奪う事にこそあった。
二度の数的有利をものに出来なかったことは非常に大きい。
チャンスの女神はなんとやら。と言うように、アップセットのチャンスというのはそれ程多くない。
「ハイプレスとディフェンスに、練習の殆どの時間を費やす」という彼らは、それだからこそ、ここまで戦って来られたという事実も持つ。こういう場面用にポゼッション練習を出来なかったのは、残念ながら、練習回数、練習時間の限られたチームの宿命だとも言える。大洋薬品が、二部練習で、数々のセット、シチュエーションの想定などを考えて取り組める「プロチーム」だという大きなメリットがあったことは間違いない。
ただ、プライアもあの時間帯をものにするための武器は持っていた。
試合が終わってからだから言える事で、これが試合中なら、この判断は「監督」「コーチ」にゆだねられる。その時、そのタイミングで判断し、そして決断出来るかが大きな鍵になるわけだし、責任の所在にも関係する事で、それが適切かどうかはわからない。
あえて私はこの試合、特に後半の最後の時間のプレーを見てでの感想として言えば、大洋薬品を退場での数的不利の局面に追い込んだ時に、一度目は仕方無いにしても、二度目の大きなチャンスを手に入れたときに、ギャンブルに出ても良かったのではないかと思ってしまう。
一度目のチャンスをものに出来ず、その方向性がぶれたままの2分間を過ごし、また同じ事を繰り返しても、先制出来るようには、残念ながら見えなかった。もっと言ってしまえば、そこを0-0で通過してしまえば、それだけ勝利の可能性から遠ざかってしまう。
極端な意見だが、後半最後の時間ではなく、あの時間にこそパワープレーを持ち込むべきだったのかも知れない。
一般にパワープレーは、後半のリードされている状況で使う事が多い。そして、それで得点を得るチームが、東海リーグを観る限り、割と多いように見える。
それならば、それを本当の「勝負をかける」時間において、ピンポイントで使うことも大いに生きるのでは無いだろうか。
この試合、後半最後に見せたパワープレーでは、大洋薬品の4人のFPを相手に、時に危ない場面はあるものの、割としっかりとポゼッションを上げることが出来ていたと思う。
負けているわけだから、どうしても若干無理目な所まで行かなければいけなかったが、もしあれが相手が一人少ない状況で、しかも最悪は得点を奪えなくても0-0。という状況であれば、もっと安全に一点を狙えたのでは無いかと思う。だからこそ、早すぎたあの時間にこそ、プライアは勝負をかけても良かったのかも知れない。
数的有利、即、対応戦術を持つ。というものでも持っていれば、そのチームはそれで良かったと思う。
彼らに何度かインタビューをさせてもらい、「ハイプレス、守備の練習以外は殆ど出来ていない」という、彼らの声を聞いていたからこそ、せめてあの二度目の時間に、ただ闇雲に攻めるのではなく、何か意図を持ってチャンスを手に入れに行っても良かったかなと感じる。
あくまで傍観者の意見である。「ああしていれば」「こうしていれば」というのは、残念ながら責任がない。それを決断することで、大きな責任がかかってくるのが、その当事者となる。
大洋薬品とプライアの、イレギュラーの乗り越え方に大きな差を見せたのは、実はそのベンチの力、つまり「責任者である当事者」の差であったのかも知れない。
専任の監督、コーチ、スタッフが脇を固め、全体を見ることに集中できる人間がいるベンチと、プレイングマネージャーが、自分のプレーと全体のプレーを同時に判断し決断していかなければいかないチームは、それだけで大きな差が出る事が、この試合には大きく影響した感じがする。
ピヴォを2人失いながらもピヴォを使わない戦術を即座に取り入れ、見事勝利を勝ち取った大洋薬品/BANFFと、
数的有利を2度も与えられながら、そのチャンスを活かすことが出来なかったプライアグランジ。
両者の間には、目に見える以上に大きな壁が立ちはだかっているような気がする。
これは、もしかすると、全てのチームに当てはまることかも知れない。
---------- 選手コメント 北原亘(大洋薬品/BANFF キャプテン)----------
「1年を通しウチのチームは強力なピヴォをおいてそれを中心に攻めるというやり方でやってきたので、その支柱を失ったことで若干の不安がわいたのは確かですが、起こってしまった事として引きずらず気持ちを切り替えることはできました。
そして前半はボラをピヴォに据えて戦ったんですが、やっぱりいつもの彼のスタイルとは違うことが要求されるし苦労したと思います。
チームもなかなか攻め手が見いだせなかったですね。ただ後半からはベンチの指示もあって、まわしていくフットサルに変えていってからはうまくいったと思います。いつもの僕たちとは違ったスタイルで大事な一戦を勝てたことも良かったんじゃないですか。
地域CLは多少ないがしろにされがちな大会ですが、自分たちは今年3冠を目標にしてきたし、シーズンの終わり方が悪ければ全てを台無しにしてしまう大事な大会ですから、頑張って優勝したいですね。」
---------- 選手コメント 豊島明(大洋薬品/BANFF)----------
「相手も勝てば優勝といことで気持ちものっていただろうし、選手権でもプレデター戦の勝利など自分たちのプレーができていたので、多少なりともプレッシャーのかかる試合だったんですが、何とか勝ててよかったです。
内容的には、相手がかなりプレスをかけてきて裏のスペースがかなり空いていたから、そこを突いていくことをプレーはもちろんですが味方への指示も含めてできたかなと思います。」
---------- 選手コメント 上澤貴憲(大洋薬品/BANFF)----------
「最後の得点は狙ってました。その前から相手のGKが持ったときに味方から「打て」と言われているは聞こえていたし。次の地域CLでもチームに貢献できるように頑張っていきたいです。」
---------- 三輪智久(Praia Grande)----------
※前日、子供が誕生したという三輪も、残念ながらそれを勝利で飾ることまでは出来なかった。
準優勝の表彰式。そこには、自身の「5 」でなく「6 」のユニフォームを身に纏った彼の姿があった。
聞けば、この試合に来ることが出来なかった、設立当初から彼と共にプレイしてきたチームメイトが、この大会を最後にチームを去ることが決まっているらしい。
「どうしても一緒に。という想いがあって、出来ればユニフォームだけでもと思って・・」
彼には勝利の報告こそ出来なかったが、彼らも色々な想いを背負ってプレイしていることは切々と伝わってくる。
大洋薬品/BANFFがFリーグに参戦し、東海リーグを抜けた来期、他のチームは、打倒プライアで挑んでくる。
選手権、リーグ戦、と東海のタイトルでは二度、大洋薬品の後塵を拝したが、それでも両方とも準優勝とは実力の他ならない。
来期、このチームはまだまだ強くなるだろう。
2007.2.25 Interviewer・Takeshi Yoshikawa/Photo・Kaori Suzuki/text・soichiro

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