●PickUp010 蒼き落陽の中
自国開催での大会二連覇を目標に掲げた日本代表は、4対1という大敗でイランに敗れた。
表彰式の後、スタンドに挨拶に訪れた指揮官は、笑顔と拍手に見送られ、アリーナから姿を消して行った。
5,000人を越えた観客の中で、連覇を誓った太陽はイランという海へ、再度沈んでいった。
勝ちたいという思いは、その熱さとなって現れる。
会場に詰めかけたサポーターは、選手達を奮い立たようと、声を張り上げ、鳴り物をならし、自国選手の入場を待つ。
ただ、その熱さは時としてスポーツにとって大切なものまで溶かしてしまう。
試合前、両チームの選手名がコールされていく。幾度となく凌ぎを削り、その実力も折り紙付きである、最も警戒すべき強敵、IRイラン。
アジアのフットサルを牽引する日本vsイランという決勝戦は、あらゆる意味で好ゲームとなることは容易に想像出来た。
両チームのサポーターが、各々に自国代表こそが最強だと、声を張り上げてエールを送る。
耳を疑ったのはその時だった。イランの選手紹介に対してブーイングが響く。同じ気持ちで代表を応援する者として、いや、同じ気持ちで自国代表にプライドを持っているからこそ、その相手に対する敬意を欠いた振る舞いに観客席では嫌悪感をあらわにする者も見えた。残念なことに、是が非でも勝ちたいという熱さは、最高の対戦相手への敬意という、大切なものまでもを溶かしてしまった。
数秒前まで一緒に声を張り上げていた観客の、決して少なくはない人数が、その時を境にその声を落としてしまった。
同じフットボールであるサッカーで、日本が受けた苦い思いも蘇るが、何も無かったかのようにその後は自国へのエールへと戻っていった。
ピリピリとした緊張感の中、開始早々の鈴村のシュートで幕を開けた決勝戦は、序盤から激しく動き出す。
昨日の準々決勝ではいまいち振るわなかった小野のポストプレーが冴え渡り、木暮も本来のサイドでのマッチアップが頻発する。
地元関西のファンに後押しされ、藤井健太も熱気を発散させ、何より気持ちからと言わんばかりに声を張り上げ動き回る。
何より光ったのは、川原だった。幾度となく危険なシュートを防ぎ、その度に右手親指をたて、味方を後ろで援護する。序盤会場から悲鳴が上がったイランのシュートは、ことごとく外にはじき出し、セカンドボールへのチャンスを与えなかった。
一度だけ、反応して体制が崩れた後に再び放たれたシュートにも、左手を伸ばすだけで日本ゴールを守って見せた。
おそらく代表を、もしやするとフットサルでさえ初めて見るという観客も多かったであろう会場を、この1試合でその魅力にどっぷりと引きずり込んでしまった。
そう言って良いと思える程、緊張感もスピード感も、技術力も判断力も、一瞬も目を離せないと感じさせる好ゲームを演じた。
ただ、内容は徐々にイランに傾いていった。
両チーム、GKの好セーブの連発で、チャンスの応酬に見えたが、時間が進むにつれて川原の方がどんどん目立っていく。川原が目立つと言うことは、それだけイランの方に決定的なチャンスが多くなっていたと言うことに過ぎない。
好ゲームとなったのは、両チーム共に「ミス」が極端に少ない試合を繰り広げたからであった。
フットボールは突き詰めていくとミスの無いチーム、少ないチームが勝つ。
この日、開いた点差ほどのミスは日本には無かったように思えた。
大きなポイントとして注目されたのが、途中
相手エース、シャムサエーに出された1枚のイエローカード。
彼をケアし続けた鈴村に出された同じく1枚のイエローカード。
誰もが感じた。2枚目は必ず試合が動く。
チームの危機を救い、その引き替えに鈴村は2枚目のカードと共にピッチを後にした。
それでもミスは少なかったと思う。
数度、途中で入った北原のマークの受け渡しのミスや、金山のマッチアップでのミス、シュートフェイントが得意なシャムサエーに対し、瞬間にスライディングブロックに行ってしまった事はミスにうつったが、どちらかと言うと選手は出来ることを最大限ピッチに残した様に思う。
大きく影響したのは「プレイ」でのミスでなく、「采配」ミスではないだろうか。
結局、大会を通じ、日本は抱えた選手層を最大限活かせたとは言えない内容だった。
細かい部分は抜きにしても、例えばこの試合、最後の追い上げ時のパワープレーで、恐らく計算に入れていただろう岸本は、直ぐにベンチに戻され、その後出番が来る事はなかった。
出場の少ない彼も、パワープレーに入った瞬間、左サイドでボールを叩くと、一番自分が「パワープレー」で貢献できる右サイドへとダッシュした。何度か無難にパスを交換したが、結局その後は出番なし。何かをする前に出番は削がれた。
どちらかというとフィジカル(この場合、接触系)に分があるイランに対し、結局終盤でパワープレーを形成したのは、小野、木暮、藤井、金山、そしてGKに比嘉。
見る限り、イランの対パワープレーのDFはレベルが高い。イランの体を活かした寄せに対し、小柄な金山は幾度となくピンチを演出してしまった。
彼の一番の持ち味は裏へのスピードではなかっただろうか。
ゴールを空けた状態で数的優位を作り、プレスを回避し、ポゼッションを上げて、コースを空けてそこへ打ち込むというパワープレーではない。
仮に誰にもパスミスが無いと前提すれば、リスクは相手に寄せられた時にこそ発生する。
最悪の事態に体で負けず、プレスを回避してボールを廻すために、トラップからキックまでが速く、瞬時にシュートが打てる選手。となれば、他にもいた。
単純に北原などは、名古屋に於いても、右足トラップからそのまま利き足を地面に付けず、体の向きを変え逆サイドに蹴る。そういう技術を普段から多用する選手であるのは誰が見てもわかる。
最悪寄せられても、体を張れば金山よりは不安が減る。シュートもある。
通常時でもこの日の金山は、小野が逆サイドに流れ、自分の前方のスペースが空いた状態でボールを受けても、縦へ勝負をする事は殆どなかった。
決して、金山が悪いと言うわけではない。
この日のマッチアップに分が悪かったのではないかと言うことである。
結局指揮官はこの日も1stセット、2ndセットのメンバーに頼りきった。最後まで。
表彰式が終わり、スタンドに挨拶に訪れた指揮官は、暖かい笑顔と拍手に見送られた。
自国での連覇を誓った指揮官が、4-1という大敗を喫し、それでも暖かい拍手に包まれた。
私は恐怖に近い違和感を感じた。
先述の、勝負に対する敬意を忘れるほどの熱さも、目標を達成できなかった指揮官への暖かさも。
IRイランは確かに強かった。
その強さを作り上げた歴史の積み重ねも、彼らの力になっているのだと思う。
この日、大阪でイランという大海に、再び太陽は沈んだ。
積み重ねる事しかないのかも知れない。
昇らない朝日はないのだから。
もう一度アジアの頂点に立つために、まずはFリーグを。地域リーグを。プライドを。応援を。
そして、今一度みんなの厳しい目を。
自分にも、他人にも。
フットサルライフ 07.05.19

コメント
考え方はいろいろあると思いますが、相手選手へのブーイングは実力を認めた上で敬意を払った上でのものですよ。
仮に自分がブーイングされたとして、そこで凹みますか?むしろ気合が入りますよね。
逆に言うと実力を認めていない選手にブーイングはしません。
そういう私も相手ボールのときに一部の人がするブーイングは不快に思います。
Posted by: ゴレ | 2007年5月30日 13:11
ゴレさんのおっしゃるように、色々考えがあると思います。
書いて頂いたおかげで、ゴレさんのような考えもあることはわかりました。
ただ私自身は、この記事では
「プレイやジャッジ」(基本的にはいずれも不当な、もしくは納得のいかないもの)に対してではなく、「選手の存在」に対してのブーイングに異を唱えた訳です。
私自身はブーイング自体は「あり」だと思いますが、ゴレさんとは逆に、私自身は、そこに「敬意」は無いと思っています。
とらえかたは色々ありますね。
コメントありがとうございました。
また、色々と意見を聞かせてください。
今後もよろしくお願いいたします。
Posted by: フットサルライフ | 2007年5月31日 01:00